AIガバナンス協会(AIGA)は、会員企業がAIガバナンスの取組の成熟度を自己診断するためのツール「AIガバナンスナビ ver2.0」を公表しました。ver2.0では、AIエージェントに関する取組事項の新設、内閣府の指針とのマッピング追加、バリューチェーンマネジメントの拡充などの改定を行っています。
なお、本ナビは、2026年3月30日に開催した「AIガバナンスナビver2.0検討委員会」での議論を踏まえて取りまとめたものです。
AIガバナンスナビver2.0
AIガバナンスナビver2.0の概要
AIガバナンスナビは、AI事業者のAIガバナンス構築の取組の成熟度チェッカーです。AIGAの会員企業が、政策・標準や他の会員企業の取組状況をベンチマークとして、自社の取組の強み・弱みを把握できるようにすることを目的としています。ver2.0でも、以下3つのねらいを引き継いでいます。
- 実践のスタンダード作り: AI事業者としてAIガバナンス構築に必要な取組事項を把握するための、実践的なガイダンスを提供すること
- 協会活動のペースメーカー: 会員による定期的な自己診断で諸産業全体の進捗度を把握し、全体の成熟度向上のためにフォーカスすべき議論・取組事項を特定すること
- 政策・標準との接続: AI事業者ガイドライン等への対応関係を明確にし、企業の取組の政策への準拠を支援すること
ver2.0の主な改定内容
ver2.0の策定にあたっては、次の5つの論点について検討委員会で議論を行いました。
1. AIエージェント、エージェンティックAIの定義・取組内容
AIGAの行動指針でも自律的なAIへの言及があり、社会的にも重要なトレンドとなっていることから、ver2.0ではAIエージェントを対象とした取組事項を新たに追加しました。AIエージェントを主眼に取組内容を記載し、エージェンティックAIについては補足にとどめています。定義は、英国やシンガポールの定義を参考にしつつ、AI事業者ガイドラインをベースに策定しました。
- AIエージェント: 特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム
- エージェンティックAI: より包括的かつ進化的な概念で、複数のAIエージェントにより自律的に意思決定を下しアクションを起こす目標主導型のAIシステム。AIエージェント同士の関係によりリスクが惹起・増幅される可能性がある点には留意が必要
取組項目「自律性の高いAIに対する取組」は、開発者・提供者向けと利用者向けに分けて記載しています。
- 開発者・提供者: エージェントが利用できる機能、ツール、外部システムの範囲の適切な設計、利用者がエージェントに委ねる業務や行為の範囲を設定・管理できる機能、記憶内容や参照情報の管理機能などを整備する
- 利用者: 権限の設計、行為範囲の限定、実行履歴の記録、統制・停止の仕組みを含む管理体制を整備・運用する
2. エッジAI、フィジカルAIの扱い
議論の時点では、言葉としては広まりつつあるものの、実際の事業活用は一部の開発者や先進的な利用者にとどまると判断し、広く会員企業が利用するver2.0への記載は見送りました。フィジカルAIについてはAI事業者ガイドライン1.2版への追記が予定されていることから、ver2.1で追加を検討します。
3. 内閣府の指針とのマッピング
「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正確保に関する指針」(内閣府の指針)は特定の業界固有のものではなく、ナビへの反映が必要と判断しました。指針上の「活用事業者」に開発者・提供者・利用者が含まれるという前提で、取組事項の各項目と指針とのマッピングを追加しています。一方、AI推進法は基本法であり個別論点は下位のガイドライン等に記載されていることから、マッピングは実施しません。
4. 診断対象となるAIの定義
企業内で個人レベルのAI利用が進む中、個人が作成・活用するAIにまで組織が細かく統制をかけるのは厳格すぎるとの議論を踏まえ、組織・企業単位で契約・管理しているAIの統制レベルを測る形としました。
- 評価対象: 組織として契約しているAIシステム・AI基盤(個人利用を前提とするAIサービスを含む)、および組織または部門・部署が業務目的で構築・運用しているAIシステム
- 評価対象外: 組織で認可されたAI基盤を利用して個人が作成・活用しているEUC(End User Computing)レベルのAI。ただし、部門内で共有されるなど業務利用の範囲が拡大した場合は評価対象とする
また、自己診断は会員企業1社の範囲内での組織的な取組を対象とし、特定のユースケースではなく、組織として実装しているルール・プロセス、体制、リスク対応状況等を回答する形です。国内外の子会社・グループ会社に対する統制状況は、β版のグループガバナンスの成熟度自己診断で確認できます。
5. バリューチェーンマネジメントの拡充
サプライチェーンリスクが複雑化・課題化していることを踏まえ、ver1.1では共通だった取組事項・取組例を、ver2.0では開発者・提供者と利用者で分けて記載しました。
- 開発者・提供者: データ取得から設計、学習、提供後の運用までのバリューチェーン全体を視野に入れ、責任分担や対応基準の明確化、リスク情報や技術的特性に関する情報の提供などを行う
- 利用者: 自らの利用目的や業務影響を踏まえ、提供者との責任分担を明確化し、運用過程で把握した課題やリスクを共有するなど、バリューチェーンの一主体として主体的にガバナンスに参画する
自己診断結果の共有・活用の方法
ver2.0でも、ver1.1の方式を引き継ぎ、全体集計と提出者限定の詳報の2層でフィードバックを行います。
- 全体集計: 各項目に関する集計値(該当する回答者数、平均点等)と、個別企業の情報を含まない傾向分析や示唆を、会員全体向けの結果共有、イベントやWebサイトでの成果発表、政府担当者向けの共有などに活用します。回答数によっては属性別の集計も検討します。
- 提出者限定フィードバック・座談会: 自己診断結果を提出した企業限定で、匿名化した自己評価・取組例のリストの還元や、回答企業限定の座談会を行います。次回ナビ改定時の参考資料としても活用します。
自己診断は年2回の実施を維持しつつ、4〜5月実施の診断への参加を「強く推奨」し、10〜11月実施のマイナーアップデート版は「診断可能」とする形にしました。回答負担の軽減と、大きな組織的変化が半年単位では起こらないという想定が背景です。
ver2.1に向けて
今後は、エッジAI・フィジカルAIなどの最新技術への対応、AI事業者ガイドライン1.2版など最新のガイドラインへの対応、認証・標準WGとの連携を中心に、ver2.1に向けた検討を進めます。
AIガバナンス協会では、今後も会員企業の皆様と共に、AIガバナンスの社会実装に向けた取組を推進してまいります。