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2025年11月28日(金)、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、「一般社団法人AIガバナンス協会定時社員総会/年次シンポジウム 2025」を開催しました。
AIガバナンス協会(AIGA)は、2023年10月の任意団体設立以降、AIのリスクを管理し、その便益を最大化するための取組である「AIガバナンス」の普及促進のため活動してきました。民間での自主的なAIガバナンス実装の取組を推進するべく、産業横断での知見蓄積や政策・制度への提言を主導し、約120社規模まで会員企業を拡大するとともに、関係省庁や公的機関などとの連携も深めてきました。
2024年10月の一般社団法人化から1年を迎えた節目となる今年のシンポジウムでは、生成AIの普及を背景に急速に変化するガバナンス・政策・国際競争の最前線について、日本を代表する企業の経営層や多様な立場の専門家が集い議論を行いました。
以下、年次シンポジウム 2025の様子の一部をお伝えします。
開催概要
主催:一般社団法人AIガバナンス協会(AI Governance Association)
日時:2025年11月28日(金)14:30–18:00
会場:虎ノ門ヒルズフォーラム Hall B(東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズ森タワー4階)
オープニングスピーチ

登壇者
佐久間 弘明(さくま ひろあき)業務執行理事 兼 事務局長
開会に寄せて、佐久間理事より挨拶が行われました。AIGAは一般社団法人化から1年を迎え、会員企業は67社から126社へと大きく拡大しました。多様なバックグラウンドを持つ事務局メンバーと会員企業による支援に支えられ、活動領域もこの1年で大幅に広がったことへの感謝が述べられました。
続いて、2025年のAIを取り巻く変化について、「技術・政策・社会実装」の三点から振り返りが行われました。特に、AIエージェント化の進展や深度化する技術リスク、一般ユーザーにも及ぶAIリスクの拡大、海外政策動向の変動など、多方面で変化が加速している点が示されました。ディープフェイクやAIによる判断の誤りが個人にも影響を及ぼした具体例を挙げつつ、「誰がどのようなリスクに直面するかが予測しづらい時代に入った」との認識が共有されました。
その上で、AIGAとして今後特に重視すべき取組として、①マルチステークホルダーの持ち寄る集合知の拡大、②日本型ガバナンスモデルの対外的な発信強化、の二点が挙げられました。社内外の多様な視点を議論に巻き込み、未解決の社会課題に向き合う場としてAIGAを進化させていく意欲が述べられました。
最後に、会員企業へ向けて「答えのない領域だからこそ、問題意識を気兼ねなく持ち寄ってほしい」とのメッセージでスピーチが締めくくられました。
新理事就任挨拶

登壇者
勝木 朋彦(かつき ともひこ)KDDI株式会社 取締役執行役員常務 CSO 兼 CDO 経営戦略本部長 兼 オープンイノベーション推進本部長
勝木理事より、新任理事としての就任挨拶が行われました。まず、AIGAの活動を支えてきた会員企業・関係者への敬意と感謝が述べられ、一般社団法人化から1年でAIGAが果たしてきた役割の重要性が強調されました。
続けて、政府の「国家戦略技術」にAIが指定されたことに触れ、AIが産業・行政・教育など社会のあらゆる領域で新しい価値を生み出す一方、安全性と信頼確保の重要性が増している現状について言及されました。技術の倫理性と社会受容性を両立するため、民間企業としても真摯な向き合いが必要であると述べられました。
最後に、AIGAが健全なAIの発展と社会的信頼の確立を支える場として機能していくために、自身も理事として尽力していく決意が示されました。
理事によるビデオメッセージ
本日はご用務により登壇がかなわなかった理事より、会員・関係者の皆様に向けてビデオメッセージが寄せられました。AIGAの一般社団法人化から1年を迎えた今、団体としての成長と、実装フェーズが本格化するAIガバナンスの現在地をそれぞれの立場から振り返る内容となりました。
登壇者
瀬名波 文野(せなは あやの)理事 リクルートホールディングス 取締役・常務執行役員・COO
瀬名波理事からは、事業の現場で直面するリアルな悩み・試行錯誤を持ち寄り、実践につながるルール形成を行う場としてAIGAの価値が改めて語られました。各国の法制度・社会期待が異なる中で、グローバル企業としてのガバナンス基準の設定が難しい点や、AIの誤作動を防ぐといったリスク管理の取組がが短期的な業績とは相反する場面があるなど、現場目線からの課題も共有されました。
成功だけでなく、失敗や葛藤を共有できるコミュニティとしてAIGAを今後もより活用し、産業界としての共通基盤づくりに貢献していきたいとのメッセージで締めくくられました。
登壇者
大柴 行人(おおしば こうじん)代表理事 Robust Intelligence 共同創業者 Cisco Director of AI Engineering
大柴代表理事からは、AIGAが任意団体設立から2年、一般社団法人化から1年で大きく成長したことへの謝意が示されました。会員企業が31社→67社→126社と拡大してきた背景には、AIガバナンスへの社会的関心の高まりと、AIGAが積み重ねてきた実装支援の成果があると述べられました。
さらに、AIガバナンスナビのローンチ、AIGA Monthly All-Hands、政策形成への参画など、この1年でAIGAが実装フェーズを強化してきたことが紹介されました。生成AIやエージェント化による新たなリスク、地政学要因がAI技術に及ぼす影響など、急激な外部環境の変化にも触れ、「来年はAIGAがAIガバナンスを主導する年にしたい」との意欲が語られました。
AIGAはAI推進のための攻めのガバナンスを掲げており、新たな技術・リスクに対応する未来志向の枠組みづくりを牽引していく姿勢が示されています。
活動報告

登壇者
上野 裕太郎(うえの ゆうたろう)事務局次長
上野事務局次長からは、この1年間のAIGAの活動実績と事務局体制の拡充について報告が行われました。14名を中心に、インターン・業務委託など多様な形態で人材が加わり、会員ニーズに応える体制を整えてきたことが紹介されました。また、会員企業は126社(11月時点)へと増加し、産業横断のネットワークがさらに広がったことが示されました。

2025年の主な取り組みとして、
・経営層向けレポート「AI時代の意思決定とガバナンス」の策定
・「いつの間にかAI」実態調査および提言レポートの作成(47社の回答)
・パーソナルデータのあり方検討会の立ち上げ
・AIガバナンス認証に向けた検討深化
などが紹介され、AIGAが知見共有の場として中心に活動していることが示されました。
また、最新のAIトピックについて有識者と議論する「AIGA Spotlight」や会員主導で勉強会を行う「AIGA StandUp」、アカデミア・国際団体との連携イベント、対外発信(理事インタビュー、実務者インタビュー等)といった多様な取組を通じて、ガバナンスの社会的浸透を進めてきた点も報告されました。

最後に、来年度の展望として、ナビ体制の強化、心理的依存や偽情報などの社会的課題への知見収集、リテラシー向上、人材育成、国際発信強化などの方向性が示されました。多数の有識者・会員企業の協力への感謝を述べ、今後の活動への期待とともに報告が締めくくられました。
AIガバナンス実装の現在地:「AIガバナンスナビver1.1の自己診断結果レポート」

パネリスト(五十音順)
今井 幸伸(いまい ゆきのぶ)様 武田薬品工業株式会社 ジャパンファーマビジネスユニット データ・デジタル&テクノロジー部 AI&ビッグデータ ヘッド
長南 考(ちょうなん たかし)様 株式会社大和証券グループ本社 IT統括部長
中村 大介(なかむら だいすけ)様 東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 チーフ
モデレータ
中村 剛(なかむら こう)一般社団法人AIガバナンス協会 事務局 AIガバナンスナビSWG座長
続いて、AIGAが開発を進める「AIガバナンスナビ ver1.1」の自己診断結果をもとに、会員企業によるパネルディスカッションが行われました。今回は、実際にナビを活用した各社の取り組みや手応えを共有しながら、現場で何が起きているのかを立体的に捉えるセッションとなりました。
冒頭では、自己診断の全体傾向について解説がありました。全体としては、企業ごとに成熟度に差が見られる一方、現状と課題については多くの企業が共通しているとの指摘がありました。具体的には各企業とも、AIガバナンスのルール整備は進んでいるものの、部門横断連携や専門人材の確保、モデルの継続的な評価など運用段階に課題が残っています。また、ユースケースによって求められるガバナンスの深度が大きく異なることも確認され、産業特性を踏まえたアプローチの必要性が浮き彫りになっています。
続いて、ナビを活用する中での現場の気づきが会員企業から共有されました。創薬、金融、公共インフラなどリスクが高い領域では、説明責任や透明性の確保が特に重要になるという声が多く挙がりました。一方で、「ナビを通じて社内の共通言語が生まれた」「担当者同士の会話が進みやすくなった」といった前向きな変化も紹介され、自己診断が単なるチェックではなく、組織内の対話を促す契機になっていることが示されています。
議論の中盤では、ナビをAIガバナンスを前に進めるための仕組みとして捉える視点が強調されました。従来の統制の枠だけではカバーしきれないリスクが増えるなかで、ナビは「できているところ」と「これからの課題」を明確にし、実装のペースを整える役割を果たすとの意見が交わされました。単に不足点を洗い出すだけではなく、企業ごとの前進のための指針・ロードマップとして活用されている点が特徴です。
最後に、今後の方向性について「AIガバナンスはAIの利活用を止めるためではなく、安心して活用するための基盤である」という認識が改めて共有されました。AIGAとしても、会員企業の声を踏まえながらナビの改善を継続し、産業横断での実践知の集約を進めていく意向が示され、セッションは締めくくられました。
経営セッション:AIガバナンスは日本企業の勝ち筋になり得るか?

パネリスト
工藤 卓哉(くどうたくや) 様 マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー マッキンゼー・デジタル 日本統括責任者 AIセンター・オブ・エクセレンス 統括
田中 昭二(たなか しょうじ) 様 三菱電機株式会社 デジタルイノベーション事業本部 AXイノベーションセンター AI活用推進プロジェクトグループ プロジェクトグループマネージャー
伊藤 錬(いとう れん) 様 Sakana AI 共同創業者 COO
モデレータ
山本 忠司(やまもと ただし) 理事 三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役常務 リテール・デジタル事業本部長 兼 グループCDTO
「経営アジェンダとしてのAIガバナンス」をテーマに、多様な業界から経営層が登壇し、事業変革の視点からAIガバナンスのあり方が議論されました。
冒頭では、生成AIの普及により、事業構造そのものが変わりつつある現状が紹介されました。これに伴い、AIを活用する上でのリスクを適切に捉え、企業として安心して攻めていける状態を整えることが、経営の重要課題になっているという認識が共有されています。
続いて、AI開発・提供・利用のバリューチェーンにおける役割分担について意見交換が行われました。データ提供者・モデル開発者・サービス提供者がそれぞれどの段階を担うのか、責任をどのように整理していくのかについて、実務に根ざした視点から具体的な論点が示されました。この整理が不十分な場合、企業としての説明責任が曖昧になりかねず、「信頼されるAI活用」を実現するうえでは避けて通れないテーマであることが強調されています。
また本セッションでは、企業がAIを安心して導入するためのキーワードとして 「お墨付き」 が挙げられました。内部統制だけでなく、第三者評価や認証といった仕組みによって一定の基準を満たしていると外部に示せることが、取引先や消費者からの信頼確保に直結するとの見解が語られました。これにより、AIガバナンスが単なるリスク対策ではなく、企業価値を高めるための戦略的基盤になり得ることが示唆されています。
最後に、技術の進化が続く中で、ガバナンス自体も継続的に更新していく必要性が確認されました。産業横断で実践知を蓄積していくこと、そしてAIGAがその中心として企業間の対話を促し、国内外へ知見を発信していくことへの期待が寄せられ、セッションは締めくくられました。
政策セッション:グローバルなAI開発競争の中、日本のAI政策の次の一手は?

パネリスト
羽深 宏樹(はぶか ひろき)代表理事 スマートガバナンス 代表取締役CEO 京都大学 特任教授・弁護士
村上 明子(むらかみ あきこ)様 AIセーフティ・インスティテュート 所長 SOMPOホールディングス株式会社 執行役員常務 グループCDaO 損害保険ジャパン株式会社 執行役員CDaO
楠 正憲(くすのき まさのり)様 デジタル庁 統括官(デジタル社会共通機能グループ)
モデレータ
佐久間 弘明(さくま ひろあき)業務執行理事 兼 事務局長
続いて、「グローバルなAI開発競争の中、日本のAI政策の次の一手は?」をテーマに、政策、行政、民間それぞれの観点から議論が行われました。
冒頭では、世界各国でAI関連の制度整備が加速するなか、日本としても技術の進化に対応できるスピードと柔軟性が不可欠であるとの問題意識が示されました。AIは運用後にも挙動が変化するため、従来の枠組みだけでは十分に対応できない場面があることが指摘されています。
続いて、ルール形成における責任の分担が主な論点となりました。
AIには「100%の安全」を前提とすることが難しい側面があるため、どの水準を受容可能なリスクとみなすのか、そしてどの主体がどこまで管理するのかを丁寧に整理する必要があるとの指摘がありました。安全性評価の観点や検証手法の整備、第三者の立場を活かした仕組みづくりなど、実務につながる制度設計への期待も語られています。
行政の立場からは、政府自身のAI活用が広がるなかで、民間が持つ実データや実装知を政策に取り入れる重要性が強調されました。官民が相互にフィードバックを行いながら進める「ガバナンスエコシステム」の必要性も取り上げられ、政策と現場を循環させるアプローチの重要性が共有されました。
国際環境については、欧州・米国・アジアなどで異なるガバナンスモデルが並存しており、日本としても自国の産業構造や文化に即したアプローチを主体的に示していく余地が大きいとの見方が示されています。
最後に、制度を整えるだけではなく、継続的な検証や妥当性確認、評価、そして監査、将来の技術トレンドを踏まえた先回りの対応など、政策の実効性が今後ますます問われていくという展望が述べられました。明確な正解がないテーマに向き合うなかで、AIGAが多様な主体を結び、議論の基盤を支える役割を担っていくことへの期待が示され、セッションは締めくくられました。
クロージングスピーチ

登壇者
生田目 雅史(なまため まさし)代表理事 東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員 グループCDO
締めくくりとして、生田目代表理事よりメッセージが述べられました。
冒頭、生田目代表理事は、AIGAが国際的にも稀有な民間主導のAIガバナンス実装団体として存在感を高めてきたことを振り返りました。海外では、AIGAの活動に対する関心が着実に高まっており、実践知を積み重ねる日本型アプローチは国際社会にとっても関心を集めていることが紹介されました。
あわせて、AIの公平性・セキュリティ・環境影響・安全性といったテーマは、AIに特有の論点として語られがちだが、実際には人権、安全保障、サステナビリティ、製品安全など、社会全体のガバナンスと深く結びついていることが指摘されました。AIガバナンスの議論を進めることは、そのまま社会全体のリスク対応力の向上につながるという視点が示されました。
最後に、生田目代表理事から、参加者一人ひとりが今後も積極的にAIGAの活動に関わり、意見を発信していくことで、日本社会がより良い方向へ進んでいくことへの期待が寄せられ、シンポジウムは締めくくられました。


AIGAは、一般社団法人化から1年を経て、AIガバナンスの“実装フェーズ”を主導する存在として活動を加速させています。本シンポジウムで示された多様な視点を踏まえ、今後もAIガバナンスナビの運用、政策提言、国際連携などを通じて、実務に根ざしたAIガバナンスの普及と標準化に取り組んでいきます。
