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2025年7月15日(火)、「AIGA Meetup #3」を実施しました。経営戦略におけるAIガバナンスの重要性が高まる中、企業の取締役会レベルでの関与や政府のAI調達における新たなガイドライン策定など、AIガバナンスを取り巻く環境の急速な変化をテーマに、2つのセッション及び会員間の交流を行いました。
以下、イベントの様子の一部をお伝えします。
開催概要
主催:一般社団法人AIガバナンス協会(AI Governance Association)
日時: 2025年7月15日(火) 17:00-19:00
会場:日本橋ホール(日本橋髙島屋三井ビルディング内)
対象:AIGA会員
オープニング

登壇者
一般社団法人AIガバナンス協会 事務局 上野裕太郎
冒頭では、一般社団法人AIガバナンス協会の上野より活動報告が行われました。
協会のこれまでの取り組みを振り返りつつ、活動の着実な拡充について報告されました。特に注目すべき成果として、Podcast番組「ガバナン」の開始が挙げられました。ガバナンでは、AIガバナンス実務の現場で活躍する方々をお招きし、取り組み内容やキャリア観について伺っています。AIガバナンスをめぐるコミュニティ拡大をひとつの目的とした施策として、今後も継続的に更新していきます。
また、Meetupの継続開催に加え、新たな取り組みとして”AIGA Stand Up”の企画が始動したことも報告されました。Stand Upでは、取り組みたい課題のある会員企業の皆様が主体的に勉強会を企画できる施策となっています。様々な取り組みが動いており、協会の活動が多様化していることが印象づけられました。
このような活動の多角化を通じて、AIガバナンスに関する知見の共有と業界横断的な議論の場を提供していることが強調され、今回のMeetupも「気軽に真面目な話ができる場」として位置づけられました。
トークセッション①
理事と語る、日本のAI活用・ガバナンスの行く末
登壇者
一般社団法人AIガバナンス協会 代表理事 生田目雅史
一般社団法人AIガバナンス協会 代表理事 大柴行人
一般社団法人AIガバナンス協会 事務局次長 堀田みと<モデレーター>
トークセッション①では、企業の経営戦略におけるAIの位置づけや、特にAIガバナンスについてどのように考えていくべきかについて議論しました。
前半では、「経営アジェンダとしてのAIガバナンス」というテーマで、 企業の経営戦略におけるAIリスク/ガバナンスの位置付けについて議論がなされました。
生田目理事からは、経営レベルでのAIガバナンスの重要性が触れられました。米国を先駆けとして、バークシャー・ハサウェイなどの株主や機関投資家から取締役会レベルでのAIガバナンスや倫理に関する質問が寄せられている現状が紹介されました。企業が開発・提供するAIシステムが戦争やテロなどの想定外の非人道的活動に使用されていないか、AIを用いたサービスがその時々の社会にとって受容可能なものかというマルチステークホルダー的な視点からの責任が問われていることが強調されました。
さらに経営者に求められる視点として、AIを活用することによる企業経営の高度化・効率化と、マルチステークホルダーに対する責任としての配慮という2つの重要な要素が挙げられました。これらの視点を通じて、経営者のAIに対する積極性・戦略性と、AIリスクに対する感受性が同時に評価される時代になっていることが確認されました。

大柴理事からは、あらゆる意思決定においてAIが活用されるという状況が実現されつつあること、そしてその結果として、既存の人間が行っている活動全体のリスクが「AIリスク」に置きかわっていくこと、といった前提が確認されました。そのもとでは、AIリスクは「サイバーセキュリティリスク」という範疇をこえた幅広い影響を与えるようになります。
また、AIのサプライチェーンリスクの重要性についても説明がありました。AIリスクは従来のシステム内リスクを超えて人間の意思決定プロセス全般に及ぶものであり、上流(データ・モデルの品質)から下流(ユーザーへの影響)まで包括的な管理が必要であることが示されました。

また後半では、「AIの社会実装の現在地点と課題 ガバナンス手法の進化」というテーマついて議論されました。
大柴理事からは「AI活用の民主化」現象として若手世代の積極活用に関して触れられました。生田目理事からは経営レベルでのコミットメントの重要性が提言されました。特に、海外では大手金融機関のCEOが年間数千億円規模のAI投資コミットメントを表明していることなどを例に、トップダウンでの明確な意思決定の必要性が強調されました。
トークセッション②
越境するAIガバナンスの課題 データ主権、セキュリティ、プライバシー

登壇者
デジタル庁 省庁業務サービス グループ総括参事官 内藤新一様
一般社団法人AIガバナンス協会 代表理事 大柴行人
トークセッション②では、政府のAI調達における安全性確保を中心とした議論が行われました。
内藤氏から、2025年5月に策定された「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」の概要について説明がありました。主要な特徴として、各省庁へのCAIO(Chief AI Officer)の設置、4つの軸による高リスクAIの判定システム、そしてAI固有のインシデント報告制度が挙げられました。
政府のAI活用では、機密情報・個人情報の保護、国民への直接的な影響(ハルシネーションやバイアスのリスク)の考慮、職員による品質管理など、政府特有のリスク管理が重要であることが強調されました。
大柴理事からは、民間企業でのCAIO設置の現状について言及があり、アメリカの主要テック企業では既にCAIOが広く設置されており、Chief Risk OfficerやChief Information Security Officerと連携してAIガバナンスを推進していることが紹介されました。日本企業でもCAIOの設置検討の重要性が提起されました。
また、大柴理事から他国の調達ガイドラインとの比較について質問があり、内藤氏からは広島G7で合意したAIルールとの整合性やEUの高リスクAI規律との参照関係はあるものの、政府調達という具体的なレベルでのルール策定は世界的にも珍しく、日本の取り組みが国際的にも先進的なものとして注目されていることが報告されました。
最後に、政府と民間の今後の協力については、地方公共団体への展開や官民共同でのAI利用環境構築における連携の重要性が確認されました。
クロージングスピーチ

登壇者
一般社団法人AIガバナンス協会 事務局次長 堀田みと
クロージングスピーチとして、事務局次長の堀田から、設立当初の約30社から110社超の規模まで継続して会員数が増加していることも踏まえつつ、協会の今後の活動の展望についてメッセージをお伝えしました。
今後のコミュニティ機能向上に向けたネクストアクションとして、実務レベルでの問題意識の共有、顔の見えるAIガバナンス担当者のネットワーク構築、心理的安全性のある情報交換の場の設定、若手人材の積極的な参画促進が挙げられました。特に、教科書的な整理にとどまらず、現場で発生する具体的な課題を題材とした議論の重要性が強調されました。
最後に、社会におけるAIのリスク評価と同様に、企業やチーム内でも観点の多様性が重要であり、年齢や経験の異なるメンバーの参画により、より実効性の高いAIガバナンスの実現が期待されることが述べられました。